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高木貞治『数の概念』初版,§1.整数の公理

§1.整数の公理

本章では、整数を略して単に数という。個々の数を小ローマ字$a,b,x,\cdots$などで表す。また整数の全部(集合)を$N$と書く。

各の数に対して、その次の数が確定し、また逆に各の数に対して、その前の数が確定する。すなわち、$x$の次の数を$\phi(x)$と書くならば、$x$はすなわち$\phi(x)$の前の数である。今$x$に$\phi(x)$を対応せしめるならば、この対応$\phi$は$N$の内の一対一の対応である。詳しく言えば、対応$x \to \phi(x)$において、$x$が$N$のすべての元素の上を動くとき、それに伴って、$\phi(x)$もまた$N$のすべての元素の上を動くのであるが、$x \ne y$ならば$\phi(x) \ne \phi(y)$でかつ逆に、$\phi(x) \ne \phi(y)$ならば$x \ne y$。ただし、すべての$x$に関して、$x=\phi(x)$ならば、それも一対一の対応であるには相違ないが、このような、いわゆる恒等(identical)対応は、ここでは除外する。

上記一対一の対応の成り立つことは、整数の基本的性質である。これを整数の理論の第一公理とする。


理I. $N$の内に、(恒等でない)一対一の自己対応$x\leftrightarrows \varphi(x)$が成り立つ。


次の図$A$において、各々の点が一つの数を表し、その右隣りの点が$\varphi$によってそれに対応する数を表すとするならば、左右に限りなくつづくこれらの点の列は、整数の集合$N$を図解するかに見える。
\[
(A)\quad \leftarrow \bullet \bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet \rightarrow
\]
\[
(B)\quad \leftarrow \bullet \bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet \rightarrow
\]
\[
(C)\quad \leftarrow \bullet \bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet\bullet \rightarrow
\]

然るに、$A$ど同様なる$B$を取って、$A,B$を一括してみるとき、公理Iの対応は、やっぱり成り立つ。$A$と同様なる$B,C,\cdots $をいくつ合併しても、公理Iは成り立つから、公理Iだけでは、いまだ整数の特性を尽くしたものとはいわれない。公理Iはあまりに広すぎるから、それを制限するために、次の公理IIを立てる必要がある。


理II. $N$はその類において最小(minimum),あるいは不可分(irreducible)である。


詳しくいえば、$N$の一部分だけでは、その内で対応$\varphi$は成り立たないのである。語を換えていえば $M \subset N$で、Mの内でも対応$\varphi$が成り立つならば、$M=N$。

以下、便宜上、$\varphi(x)$を$x^+$と略記する。また逆対応によって$x$に対応する数を$x^-$と書く。すなわち$\varphi(x^-)=x$で、$(x^-)^+=x, (x^+)^-=x$。 またMを$N$の部分集合とするとき、Mに属するすべての数$x$に対する$x^+$の全体を$M^+$と書く。すなわち、前書き2の記法によれば、$M^+=\{x^+ ; x \in M\}$。逆対応に関して、$M^-$も同様の意味を有する。$M^-=\{x^- ; x \in M \}$。

この記法によれば、公理I,IIを次のように書き表すことができる。
\[ I. \quad N^+ = N.\]
\[ II.\quad M \subset N, M^+ = M ならば、M = N.\]
一般に、$a,b$が$n$の部分集合で、$A = B^+ $ならば、$A^- = (B^+)^- = B$。故に$A = A^+ $ならば、$A = A^-$。また$A^- \subset A$ならば、$A \subset A^+$。故に$A^{\pm} \subset A $ならば、$A^+ \subset A $かつ$A \subset A^+$。したがって$A=A^+$。したがって、また$A = A^-$。すなわち$A=A^+=A-$。
%14版誤植により訂正:誤「かつ$A \supset A^+$」→」:「かつ$A \subset A^+$」
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理I,IIの妥当性

理I,IIが論理上矛盾を含まないことは、次の実例によって示される。今$N=\{a,b\}$(元素$a,b$の集合、$a \neq b$)とし、$\varphi(a)=b,\varphi(b)=a$とすれば、$\varphi$は公理Iに適合する。そうして、$N$が不可分であることは明らかであるから、上記$N$は公理IIにも適合する。このように公理I,IIに適合する集合$N$が存在するから、公理I,IIは論理上の矛盾を∌。もしも矛盾があるならば、$N$のような集合は一つも存在し得ないはずだというのである。

一般に、$N$が公理Iだけに適合するならば、$N$は必ずしも公理IIの意味で不可分ではあるまい。今$N$の部分集合$C$の内において、既に対応$\varphi$が成り立っているとし、それを仮に連鎖(chain)と呼ぶことにする。然らば、二つ以上の連鎖の共通分は、やはり一つの連鎖である。そこで、$N$の一つの元素$a$を含むすべての連鎖の共通分を$C(a)$とすれば、$C(a)$は$a$を含む最小の連鎖であるが、この$C(a)$は不可分である。すなわち$C(a)$の一部分だけでは、連鎖にはならないのである。なぜなら、もしも仮に$C(a)$の一部分なる$C_1$が連鎖をなすとするならば、その余集合$C_2 = C(a) - C_1 $も連鎖でなければならない。そうして、$C_1,C_2$の中、どちらかは$a$を含まねばならない。それを$C_1$とすれば、$C_1$は$a$を含む連鎖として、$C(a)$を含まねばならない。これは矛盾である。ゆえに$C(a)$は不可分である。

このように、$N$が不可分でないならば、$N$は不可分なる部分集合を有する。然らば、その余集合も連鎖で、それが不可分でないならば、不可分なる部分集合を有するから、畢竟$N$は不可分なる連鎖の合併である。さて我々は整数不可分なる連鎖をなすものと仮定して、それを公理IIとして提出したのである。

これより後、我々は公理I,IIのみを仮定として、論理的に整数の理論を展開する。順序、計量など、直感的の知識は、公理の裏付けではあるが、それらは論理の表面には表さない。$\varphi(x)$も、$x$の次の整数という具体的の意味は抽象し去って、それを単に一対一の対応として取り扱うのである。この方法上の立脚点を念頭に置かなくては、論証の題意がつかみ難いであろう。




本文書は、高木貞治(1949)『数の概念』初版を、@が新字新かなに改めたものです。
底本は初版第10刷(昭和33年2月15日)を使用しています。