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後閑菊野, 大山斐瑳麿『家事経済学』第一章第五節、家事経済の特質

後閑菊野, 大山斐瑳麿(1904)『家事経済学』第一章第五節、家事経済の特質 の現代語訳です。
国会図書館デジタルコレクションを底本としています。
国立国会図書館デジタルコレクション - 家事経済学



第五節 家事経済の特質

家事経済がどんなものであるかは、ほぼこれまでに述べてきた。今、一層家事経済の観念を明らかにするため、性質が最も似通った国家財政と家事経済とを照らし合わせ、家事経済の特質を示そうと思う。

  1. 家事経済における収入は、主として自家生産による。国家は権力団体であることから、国家の収入は租税その他の徴収によるものを原則とする。一方私人にあっては専ら平等関係によって収入を得るほか手段がないから、私人の収入は主として自家の生産による他ない。これが家の経済が権力団体の経済と趣を異にする理由である。
  2. 家事経済にあっては、収入に応じて支出を定めることを原則とする。ひるがえって、国家の収入は原則として権力徴収によるものである。国家は必要に応じてその収入を増やす余地がある一方、支出の増減は自由ではないものであるから、国家の財政においては、まず支出を定め、その後で収入を考える。これに反して私人の経済では、収入は主として生産によるものであるから、必要に応じて増加させることができない。一方支出の方はというと、多少は伸縮自由である。よって家事経済は、まず収入を考え、それに応じて支出を定めることを原則とする。
    1. しかし私人経済においても、いわゆる最低生活費は生存上避けることのできない支出であるから、その必要額は必ず取得することを考えなければならない。この点から言えば、私人経済にあっても、絶対に収入に応じて支出を定めようということはできない。また、国家経済においても、その収入は必要に応じて限りなく増加させられるものではない。常に人民の資力を考え、これに応じて国家の収入を考慮しなければならないから、これまた絶対に支出を計って収入を定めるとのみ言う事はできない。このように、ある程度以上は二者いずれもその原則を貫くことはできないけれども、一般に言うときは、国家経済と家事経済とは、原則が異なっているものであることは明らかである。
  3. 家事経済の目的は余裕の蓄積であり、国家経済の目的は収支の適合である。国家の目的は一般公共の利益であって、自己の利益ではない。したがって国家の収入は、ひとえにその経費を支えるためにあって、自己を富ますためにあるのではない。よって、財政の要旨はその収入をなるべく支出に対して過不足なくすることにある。これに反して、私人の経済では、ただ自己現在の生計を支えるだけで足りるものではなく、さらに進んで利益を収得し、家を富ますことを目的とする。したがって家事経済の要旨はなるべく余裕を蓄積して将来に備えることにある。
  4. 家事経済においては、収入の財源は自由に選ぶことができる。国家経済においては、その収入の財源を求めるにも、常に国家の目的である公共の利益を顧みなければならない。すなわち、経済上の利害の他、なお行政上・徳義上・種々の利害を考量しなくてはならない。これに反し家事経済においては、正義公道に反しない限り、どのような仕事に従事することも妨げられず、各自の好む所にしたがって、自由に財源を定めることができる。

以上のように、家事経済と国家財政とは、種々の点において重要な差異がある。といっても、これらの違いはすべて、家と国家との性質の違いによるものなのだ。グスターフ・コーン氏いわく、「私人の需要は直接に自然の欲望から発し、国家の需要は智識上の思慮より発する。すなわち食糧、飲料、住居、衣服、娯楽、交際などは個人経済における主な欲望であって、平和、秩序、安寧、教育、救貧などは公共経済に関する重大な欲望である」と。家と国家との経済上の目的が異なるのは、実にこのようなところがある。